AIは使えるか?PDF→CAD変換をやってみた。その結果を考察する
近年、AI技術の進化により、PDFや画像からCADデータへ自動変換するツールが増えてきました。AIを活用すれば、手作業のトレースを減らし、迅速にCADデータ化できるのではないか?と思うかもしれません。
そこで、実際にAIを活用したCAD変換ソフトを使い、手書き図面やPDFをどこまで正確にCAD化できるのか検証しました。
結論:AIで完全なCADトレースは難しい(2025年3月時点)
ここでは、特定のソフト名は挙げませんが、実際に試した変換結果を画像付きで分析し、どこに問題があるのかを考察します。これから「手書き図面」や「建築図面」、「PDFデータ」をAIや変換ソフトでCAD化しようと考えている方の参考になれば幸いです。
1. AI変換ソフトの結果を検証
AIを謳う変換ソフトがCADトレースの界隈でも話題になっています。しかし、現時点ではPDFをAIに入力するだけで自動でCADトレースされるわけではなく、AIはあくまで補助的に使われています。AIは作図を自動化するのではなく、作図時の補助をするという形が一般的です。
(A) 元画像(左)と変換画像(右)

まず、手書きやスキャンされた図面(ラスター画像)を用意し、この画像をAIを活用した変換ソフトでベクター化(CADデータ化)してみました。
全体的に見ると、線が整理され、CADのようなデータに見えます。しかし、詳細を確認すると多くの問題点が見えてきます。
(B) 変換結果を拡大検証する

左が元画像、右がAIでCAD(ベクター)化したデータの拡大図です。
1. 直線が歪んでいる
左画像(ラスター画像)では真っ直ぐな線が、AI変換(ベクター化)すると本来まっすぐなはずの線が歪んでいることが分かります。
2. 文字の認識が不完全
本来「子機」と書かれている文字が、AI変換後には意味不明な形状に変換されていることが確認できます。人間には「文字」と認識されますが、AIでは建築要素の一部として処理され、「文字」を正しく認識できないためです。
3. 形状が崩壊している
細かい記号やシンボル(子機下のシンボル)も、AI変換後に記号としての意味をなさない形へと変換され、図面として使いものにならない状態になっています。
2. ラスター画像をベクター化することの限界
ラスター画像とは?
ラスター画像とは、ピクセル(もしくはドット)の集合体であり、拡大すると小さなドット(点)の集まりとなっていることがわかります。これは、図面が線の集合体であると考えると、CADデータとして扱うには不向きです。
ベクターデータとは?
ベクターデータは、座標情報をもとに線や図形を描画するデータ形式であり、拡大・縮小しても劣化することがありません。CADデータは基本的にベクターデータとして扱われているため、ラスターデータをそのままCAD化するには多くの課題が存在します。
3. ラスターをダイレクトにCADデータに変換できない理由
AIによるPDF→CAD変換では、「ラスターをベクター化する」プロセスが基本となります。しかし、以下の問題点があります。
✔ 線の歪みやブレが発生(本来の直線が不自然なカーブになる)
✔ ノイズをそのまま拾う(点や折り目などが、図の一部として認識される)
✔ 文字が線の集合体として変換される
✔ 修正作業が余計に発生する可能性がある
これらの問題により、ベクター変換後のデータは実用に耐えないことが多いのが現実です。
4. AIによるベクター変換と手作業CADトレースの比較
項目 | AI変換 | 手作業CADトレース |
---|---|---|
変換精度 | 低い(ノイズや歪み発生) | 高い(元データに忠実) |
文字認識 | 不正確(線として処理) | 正確(フォントとして処理可能) |
修正作業 | 多い(手作業での修正必須) | 最小限(最初から正確に作成) |
作業スピード | 速いが後処理が必要 | 遅めだが精度が高い |
結論として、AIによるCAD変換は補助的な手段として活用するべきであり、最終的には人の手による修正が不可欠であることが分かります。
5. 代替手段として画像編集を考察
AI変換の精度に不安がある場合、以下の方法を検討すべきです。
✔ スキャンした画像に直接注釈を追加する(ペイントソフトを使用)
✔ CADソフトで画像を下絵として挿入し、必要な所だけCADで編集
✔ 手書きのまま活用する方法を検討する(紙図面をPDFで管理する)
6. まとめ
AIを活用したCAD変換は、完全自動化にはまだ遠い段階です。特に、線歪み、ノイズ、文字の誤認識といった問題が解決できない以上、AI変換だけでCADトレースを実用化するのは難しいでしょう。
✅ 正確で、実用に足る図面を作成するには、やはり人の手によるトレース作業が必要不可欠です。
しかし、AIを活用して手間と費用を抑えたい場合は、その特性を理解し、最善の方法を選択することが重要です。業務で使う図面では品質を最優先し、手作業でのCADトレースとベクター変換図面の併用を前提に構築することをおすすめします。